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最新テクノロジーと美術は、実は相性がいいらしい!

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学長

加藤 良次

RYOJI KATO

1957年生まれ。JTCジャパンテキスタイルカウンシル代表理事。1985年より渋谷、池袋西武、大丸東京などで個展。1988年、97年ミラノ、2002年ソウルで個展。その他、国内外の個展、団体展にて多数発表。スクリーンプリント技法を主にインスタレーション作品を発表。五条赤根研究に参画。

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客員教授

利根川 裕太

YUTA TONEGAWA

1985年生まれ。NPO法人 みんなのコード代表理事。慶應義塾大学経済学部卒業後、森ビル株式会社を経て、ラクスル株式会社に入社。2015年に特定非営利活動法人みんなのコードを設立。2016年より文部科学省「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」委員。

INTERVIEW
最新テクノロジーと美術は、実は相性がいいらしい!
加藤学長×利根川客員教授 対談
本学で2025年度開講予定の「データサイエンス・AI概論」の講師として、NPO法人 みんなのコードの代表理事を務める利根川裕太 氏が客員教授として着任されました。
加藤学長と利根川客員教授の対談インタビューを通じて、テクノロジーと美術の今後の展望について迫ります。
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<テクノロジーの発展と美術教育>
加藤:本日はNPO法人 みんなのコードの主催・理事をされております利根川客員教授にお越しいただきました。
利根川:NPO法人みんなのコード代表の利根川です。私たちみんなのコードは2015年に設立されたNPO法人です。「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」というビジョンを掲げて活動しています。主に小中高校、あるいは地域で、プログラミングをはじめ、最近だとAIなどの情報・テクノロジーの教育機会を全国に拡げる活動をしています。
加藤:テクノロジーの教育ということで、特に小学生を中心に活動を行われていますが、今小学生がみんなのコードで学んでいることが今後、大学と高等教育の場でどんな形で発展していくのかというところをお聞きしたいです。
利根川:そうですね、実際みんなのコードのサイトの利用者は小学生が半分ぐらいです。決められた問題を解くだけではなくて、なにか新しいことを作っていくことが今後ますます大事になっていくと思います。そういう意味では、美術系の教育に繋がるものが、小中高においても益々重要になっていると感じます。
<変わりゆく技術と変わらない思い>
加藤:小学生が中学、高校と上がっていく毎にテクノロジーも発達していきますよね。あと10年、20年と経った時に、今後テクノロジーはどうなって行くのだろうと予想されますか?
利根川:正確な予想は難しいですが、大きな流れは考えてることがあって、何かを作りたいとか、何か表現したいとか、何か問題解決したいというその気持ちっていうのは10年、20年経っても変わらないと思っています。 例えば今はAIで※Python(プログラミング言語の一つ)のコードとかもかなり書けるんですよね。最初のコードを書く技能そのものはAIと一緒にやればいいとして、アプリを作りたいとかウェブサイトを作りたいとか、その表現したいっていう気持ちそのものが実は一番大事なんじゃないかなと思っています。それがあれば何か新しい技術的なものとかは大人になってから学べば充分かなと思います。
加藤:基礎のデータ、大元が今までよりも選択肢が増えたっていう感じでしょうかね?
利根川:そうですね。今までは技能が難しかったと思うんですよね。特にそのデジタル技術に関わるものは。その技能がどんどん簡単になっていくってなると、より美術的な活動もきっと間口が広がるはずでしょうし、逆に決まった作業をするみたいなところのニーズは相対的に減ってくるので、よりクリエイティブな行動が民主化してくるのかなと思っています。
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<IT業界と教育業界のスピード感>
加藤:今、テクノロジーがどんどん発達していて、本学でも例えばパソコンが必携化してみんな自分のノートパソコンを持って個々で作業をする形になっていますけど、そのスピード感はどう考えますか?
利根川:私はずっとIT業界にいたので教育のスピードは遅いなぐらいに思ったりするんですよね(笑)。
加藤:私も教育は遅いと思ってるんですけど(笑)。
利根川:ただ、AIの話なんて1年半前に急に話題になって、ChatGPTが出てきて、テキストだけじゃなくて画像もどんどん扱うようになってきて。動画なんかもOpenAIが新しいものを出していたりして、やっぱり変化は凄く速くなっていますよね。
加藤:一昨年ぐらいにChatGPTなどの生成AIについて、大学でどのように対応するか、どこまでをAIにやってもらうかみたいなところを話し合ったときに、それを話し合ってる数週間後にもうどんどん進化しちゃうっていう。追いつかないんですよね。
利根川:個人的にはどうせ決めても陳腐化する部分があって、どっちかというと、その大学の風土や個性みたいなことが大事かなと思います。 私はまだ横浜美術大学の学生さんと交流はないですが、作りたいものに対してのプロセスを生成AIで置き換えてしまうのは、きっとそういうことをしたいわけじゃないと思います。自分で作りたいからたぶん大学に来ているんですよね。
でも例えばですけど、映像を作るのが好きな学生がいたとして、そこにつけるサウンドトラックはそこまでこだわりないけど、かといってフリー素材じゃないみたいな時に生成AIを使うとか、セリフのその細かい表現でちょっと悩んだ時に使うとか、その脇役的な意味では結構AIは活きてくるのではないかなと個人的には思います。
加藤:僕の世代だと、パソコンなんてなかった時代だったので、スマホとか携帯もそうですし、そういう世界が変わったところからまた展開が変わるというところを経験してきました。特にカラーコピー機ができた時は美術に携わる上でとても驚きました。ただ教授陣とかは手で描けなんですよ、やっぱり。テキスタイルは制作の中で何回もトレースしていくのでコピー機にやらせた方が早いのにだめだっていうんです。でも手で書いたのものとコピーを比べたらほぼ差がないので、だったらコピーで時間を節約してもっとデザインに使う時間を増やすみたいな使い方をしていました。
利根川:そういう感覚です。新しい技術はコピー機であり、ドローイングソフトであり、そして生成AIであり、大きな流れは同じ方向に流れていて、本質的なところは変わってないと思います。
加藤:今、大学から学生に無償で貸し出しているソフトやアプリケーションにもAIが組み込まれてますから、学生はどんどんAIを活用して、先生の方が遅いというような感じでそれでパニックですね。
利根川:小学校で対話型AI教材のツールの90分授業をやった時なんて、小学生は平均55回※プロンプト(対話形式システムにおいて、ユーザーが入力する指示や質問のこと)を投げていたんですよ。僕だって1週間でそんな投げない量を平均で投げて、かつ小学生だから隣の子の様子を見るわけですよ。そうすると学びが非常に深いし早くて、これ聞いたらツールが壊れるかもとか心配せずに若い人はやるので。そもそも大人の方が先に行こうというのがおこがましいかもしれないです。
加藤:なるほど、それはそうですね。(笑)
<GIGAスクール構想について>
加藤:文科省のGIGAスクール構想につきましても簡単にご説明いただけますか。
利根川:最近の小中等教育の情操教育周りで起きていることをお話しますと、2020年に小学校の学習指導要領が新しくなってプログラミングも必修になり、一人一台のデバイスと高速インターネットなどのICT整備を行うGIGAスクール構想もコロナで少し前倒しになって2020年度から始まりました。中学校も翌年に学習指導要領が新しくなって、高校は2022年に学習指導要領が新しくなりました。小中高それぞれプログラミング教育も充実していますし、情報Ⅰという教科を必ず履修しなくてはならなくて2単位週2コマやっています。更に、大学入学共通テストにも情報Ⅰが加わりますので、つまり、来年の新入生や現役の学生については高校で情報Ⅰという授業を必ず履修して、 その中で※Python(プログラミング言語の一つ)とかのプログラムも必ず含まれていますし、データ分析とか情報デザインとかも情報Ⅰの中に入ってきているっていう状態です。これから入学される学生さんは今までと少し違うという実感が湧いてくるかなと思います。
加藤:文科省の構想に利根川先生はどのように関わってアドバイスをされたのですか?
利根川:2016年の小学校の学習指導要領の議論にはその委員に呼んでいただきましたし、それだけではなく、小学校・中学校・高等学校の教材を作ったりしています。それから一部の学校でのAIの授業ではこういう指針でやろうという意見を出させていただいたりしています。
加藤:そうなんですね。学生たちは自分たちの発想と違うところのレベル、層を持っているのでデジタルとかAIとか発達していったときに、僕らが経験してないところからのスタートでもってくるのでその発想にはびっくりすることが多いですね。
利根川:そういう意味ではあたらしい技術が出てくると新しい表現がでてきて、そういうのってブルーオーシャンなのかなと思っていて。ポップミュージックでもボーカロイドが出てきて、ボーカロイドっぽい歌い方をするアーティストも出てきて。
加藤:おもしろいですよね。
利根川:技術が表現をアップデートすることで逆の流れが発生したり、環境が変わることで新しいプレイヤーが現れるので若い世代もチャンスを感じていると思います。
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<大学におけるAI>
加藤:大学で将来AIに対応すべくやるべきことはありますか?
利根川:デジタルに近い領域の先生はある程度AIに触らないといけないかもしれないですが、一方で油絵や彫刻といった人間がやるからこそおもしろいものもあって、人間が作るからこそ価値があるんだという価値観は少なくとも今の学生が生きているうちは全然心配しなくていいと思います。

加藤:僕の専門がテキスタイルデザインですけど、テキスタイルデザインって洋服とか服の服地だったり、インテリアの柄を作って考えていくっていうのが産業の美術なんです。そこにデジタルが入ってきて機械に任せて作らせると、職人さんが作るプリントと若干の差が生まれるんですよね。そうすると、職人さんたちは、その味は人間にしか出せないっていうんだけど、それを計算すれば機械でできるんじゃないかっていう考えもあって、そこの議論がおもしろいですね。どこまでこれは行くんだろうって。
利根川:一般論としてはコンピューターとか機械とは戦わないほうがいいですね。これは一般論なのでわからないですけど。
加藤:すごく難しい人間の味みたいなものも結局見た人の感覚なんですよね。人間も結構すぐ騙されちゃうので、説明されたらそう思い込むじゃないですか。
利根川:アートの価値って何だろう?みたいな議論はその辺にあるのかなという気はしますけどね。
加藤:美術はやっぱりなくならないんだなと思いますね。
利根川:そうですね。一方で少し在り方は変わるし、私もテクノロジーとか特に生成AIなどが出てくると、改めてクリエイティビティとはなんだとか、アートの価値とは何だ?というのが問い直されると思っているので、それが正解ってまだ少なくとも共通認識にはなってないと思っていて。そのあたりは下手したら学生の方が早く気づくかもしれないですね。そのあたりは学生と考えられるといいのかなとか思います。
加藤:そうですね。利根川先生の授業「データサイエンス・AI概論」が来年度から開講予定なので、その辺りのお話をしたいんですが、みんなのコードさんのブログで拝見した「プログル」なども課題として演習できるのでしょうか。
利根川:プログルっていうプログラム教材は、例えば高校だと※Python(プログラミング言語の一つ)でチャットボットみたいなものを作ろうっていうプログラムなんですけど、せっかく美大の皆さんと授業をやるとしたら、アートとか、クリエイティビティとか、あとAIとかデジタルテクノロジーを考えることをやりたいと思っているので、プログルよりもっとユニークなものをやれたらと思います。
加藤:ぜひよろしくお願いします。
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<日本における美術教育>
利根川:私個人としては美術大学って今後もっと評価されるべきだと思っているんですよ。
加藤:理系や文系のジャンルでいうと、芸術系や体育系はみんな「その他」の分類に入っていて、あまり重要視されてないですよね。日本って美術とか音楽って世界に誇れるはずなのに、割と後回しになっているんです。
利根川:海外の人はそういうのをすごい楽しみにくるじゃないですか。それは伝統的な美術もそうだし、最新のデジタルっぽいのもそうだし。文化的な存在感っていうのはまだまだいけるかなって思うんですよ。留学生とかはいないんですか?
加藤:中国や韓国から留学生が来ています。
利根川:そういう学生たちも伸びしろですね。
加藤:伸びしろです。うちはもともと伸びしろを求めてる大学なので、新しい人材やアーティストを発掘するみたいなところを大事にしています。
利根川:日本の18歳人口が減っていくなかで、日本でアートを学びたい人はたくさんいそうですね。アートが過小評価されてるっていうのは5年、10年、下手したら15年ぐらいかかるかもしれないんですけど、この先チャンスだなって思うんですよ。
加藤:そうですね。AIと美術が掛け合わさることで今後ますます発展していくことが楽しみです。

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