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INTERVIEW
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写真専攻特別企画!
大学案内撮影の裏側
大学案内撮影の裏側から写真専攻を知る!
横浜美術大学では4年次から、写真表現について専門的に学ぶことができる写真専攻があります。写真専攻教員の三橋 純 教授、大学案内の撮影を担当したカメラマンの勝間田大揮さんは本学写真専攻の非常勤講師を務めております。勝間田先生のアシスタントを務める写真専攻1期生の小島 葉奈子さんとの3名による「大学案内」撮影の裏側についてお話しいただきました。

勝間田先生の仕事
写真専攻対談
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動画撮影:三好 風太(非常勤講師)、北川 敬一朗 副手
写真撮影:相澤 うるみ さん、板屋 優理 さん(写真専攻)
写真専攻
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実際に触って開くことで時間軸を感じる
Q.1大学案内について
勝間田:事前打ち合わせの通りできたと思います。大学案内全体のデザインは制作会社様から提案を頂いておりますが、先方の要望と自分の撮りたいトーンがマッチしていました。普段の仕事の場合、要望に沿った写真を目指して撮影することが多いのですが、今回は母校で写真を撮るということもあり、自分自身の「撮りたい」という欲もあり、その部分も喜んでいただけました。

小島:まずは完成したことが嬉しく思います。大学案内を実際に見たとき、編集前と後ではいい意味で全然違う雰囲気になりました。デザイン案は事前に見ていましたが、実際のものは想像より良いものができ、アシスタントとして参加できてよかったです!

三橋:普通であれば「コース説明」や「学びの特徴」などから掲載しますが、本学は日本で唯一絵本の専門コースがある大学なので、絵本の特色を活かし、最初の数ページは白(まっさらな状態)から徐々に青(スクールカラー)に染まっていくという表現を取り入れています。実際に触って開くことで徐々に青く染まることを実感するとともに、成長の時間軸を感じられる表現を取り入れています。
さらに中を見ても、本学のコースの説明は蛇腹ページで大きく見せています。人工知能(AI)、ビックデータの時代なので、実際に触って、開いて「何だこれは」と感じさせるのは美大の特徴であり、紙ならではの特徴を活かしたのです。モノを作る人たちを全肯定し、創造的な環境に横浜美術大学はあるということをイメージして作られています。また、紙質にもこだわっているのでぜひ実際に触ってみてください。
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4,000枚の中から選定
Q.2撮影で大変だったこと
勝間田:写真撮影は想像以上に体力を使います。本日の撮影で使用しているカメラやライティングなどの機材も20~30キロくらいあり、そのうえで写真を撮る大変さはあります。大学案内の撮影では、決められた構図に見えますが、実際はドキュメンタリーの様に撮影した中からセレクトしたものになっています。特に臨機応変に良い写真を撮るということは、普段商業写真をとっている僕にとっては難しかったのですが、楽しく撮影させていただきました。

三橋:今回は合計4,000枚もの写真を撮影していただき、その中から250枚に厳選したのですが、どうしても捨てられない写真が非常に多く、もったいない写真も多かったです。

勝間田:写真の4,000枚も撮影時のままお渡ししているのではなく、1枚1枚何十時間もかけて色調補正し、一番おすすめの内容を提出したので、これを使ってほしい!という思いもありました。

小島:個人的に一番大変だったことが、ドキュメンタリーチックに皆さんが動いている中で写真撮影しているので、ライトの補正やモノの位置など常に先を考えながら撮影をしました。今回は動きながらの撮影が多い分、どういう導線かなど考えることが多かったです。

三橋:勝間田先生の撮影で特徴的だと感じたのは、基本的に外光(自然光)を使って撮影されていたので、外の光をどう取り込むかが軸になっていました。特に2日目の撮影は曇りだったので、カーテンを開けたり、少しでも外光が入るよう工夫し、なるべく明るい場所で撮影していました。
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青い手の表現
Q.3撮影で当初の予想より効果があったこと、感じたこと、気づいたこと
勝間田:最初の段階で、デザイン案を拝見しながら、こういう写真が必要なんだと事前に考えて撮るようにしていますが、今回はその中でも自由に撮影させていただきました。もちろん当初のデザイン案を目指して撮影しますが、2日間と時間があまりない中、撮影後にプラスアルファで自由に撮影させていただく時間があり、その時の写真を実際に掲載したりと、予定調和ではないエモーショナルな写真を撮ることができました。

三橋:今回当初のデザイン案には無い、良い写真が非常に多く、使っていないものだけで写真集ができるくらいなので、学校案内以外でも活用していきたいです。
手のひらの撮影も自然光を当てる関係で、意外とびっくりする場所で撮影しています。手のひらの表現は今回のメインビジュアルで、手を汚していくことと染み渡っていくことを表現しています。手を汚し、様々なスキルを身に着け、学んで、モノを作って社会に出ようという意図があります。
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フィルムで撮ったかのような雰囲気
Q.4今回使用したカメラとレンズ、トーニングについて
勝間田:レンズは中古でも1万円しないくらいのレンズを使用しています。ドキュメンタリーチックな撮影はオールドレンズを使用することが多いです。弱点として経年劣化で黄色く変色し、写真に影響が出ますが、現在は色調補正ができたり、レトロな雰囲気を活かしやすいので、お勧めしやすいです。
フィルムカメラも良いですがランニングコストがかかることが懸念点です。

三橋:今回使用しているオールドレンズは大学案内の紙質や雰囲気にマッチし、近年のデジタルカメラでは出しにくいようなフィルムライクの雰囲気が出ています。

勝間田:写真のトーニング(色調風合い)は紙質とマッチしており、デジタルでノイズを乗せると写真拡大の際にノイズも拡大してしまうので、どの程度の大きさでの掲載なのかは事前確認し、粒子を調整しました。粒子もただノイズを乗せるPhotoshop処理ではなく、フィルムシミュレーションというのがあり、様々なノイズ感を試しました。

三橋:ぱっと見で見たらフィルムで撮ったかのような雰囲気が出ています。デジタルとフィルムのせめぎあいも含めて玄人が見ても楽しめる内容になっています。
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社会に出て気づく「写真論」
Q.5本学写真専攻で学べる事/写真専攻の特徴について
三橋:まだ写真専攻ができて間もないですが、卒業生たちがさまざまな場所で活躍し始めています。小島さんは写真専攻1期生ですが、もともとはビジュアルコミュニケーションデザインコースに所属していました。そこを含めて学んだこと、活かしたこと、もっとこれを学びたかったなどはありますか?

小島:もともとグラフィック分野に所属していたこともあり、写真に関する基礎知識が抜けていたので、2年次の授業を履修していました。当時写真専攻は私だけでしたので、2年次の授業を気軽に履修できたのですが、今は人数も増え、学び直す機会を得るのは難しいかなと思います。なので4年次からでも基礎から写真について学べる環境があればいいかなとは思います。写真専攻の中では、「写真論」の授業で写真家の歴史を学んできましたが、社会に出ると意外と写真家を知らない人もいるので写真専攻で学べてよかったと思います。写真家の知識があったうえで写真を撮るのと、過去の先生たちの写真を知らない状態で撮るのではモノが違ってきます。写真好きな人の写真は違うな、と最近は特に思います。

三橋:授業だけではなく、社会にでて気づくことも多いですよね。機材やライティング、カメラ、絞り、シャッタースピードなど挙げればキリがなく、実践を通さないと身につかず、実践に特化したものは専門学校に近いです。大学は歴史や、その時代のカメラマン作品がなぜ今でも評価され、現代にどう続いているか学び、自分の表現に落とし込んだ時に、どのように撮影して、構成して、展示したりするかという考えが学べます。
写真専攻では自分の半生を振り返って作品をまとめる授業が効果的です。セルフポートレートも撮り、セルフドキュメントをさせることは横浜美術大学の特徴です。
勝間田先生は講師として教える中で思うことはありますか?

勝間田:三橋先生が仰ったことが全てと思いますが、写真専攻の中だけでも、講師陣の方は様々な分野で活躍されており、学生たちがいろんな多様性を見れることが面白いと思います。

三橋:卒業制作を見ると不思議に思います。例えば絵としては美しくなくても、コンセプトと絵、そこに居合わせた作者自身の関係性は、ビジネスではできない思いやバックストーリーを見ることができます。

勝間田:写真はアウトプットされてしまえばそれまでなので、バックストーリーは想像するしかなく、学生に思いを聞くとそうなんだと思うことが多いです。現代は映像と写真の境目があいまいになっていると感じます。映像メディアの中で映像の勉強をしながら、プラスアルファで写真を学べることが今の時代にマッチしていると思います。小島さんもデザイン分野で学んだことを通じて、写真専攻を選択してくれています。

三橋:2年次、3年次は映像メディアデザインコースで学び、4年次は映像と写真に分かれます。映像作品はスタートから最後まで見ないと意味がない、人によってはエンドロールまで見ないとダメという人もいます。写真は時間軸が凍結して、完全に一瞬なので見たときに何か想起されたり、想像力が無いと何も感じないのかもしれない。そういう意味では、映像の表現と写真の表現は全く別物だと感じますね。
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幅広い分野を学べる強み
Q.6これからの写真・映像業界について
勝間田:写真専攻だけでなく、映像メディアデザインコースもやる気次第では機材は使い放題ですし、他のコースからコース変更してきても自由に作品を作ることができる環境だと思います。うまく大学を利用して良い作品をたくさん作ってくれたら嬉しいですし、それを経て写真専攻に来てくれたら嬉しいです。

三橋:勝間田先生は現在カメラマンとして働く中でもやはり写真が好きだと感じますか?

勝間田:もともと映画監督を目指して、入学したのですが、当時は短大なので学び足りないと思いました。その時三橋先生に写真を教えていただき、カメラマンとしてのキャリアが始まりました。最初は映像を撮りたかったのですが、写真を撮っていくうちに、写真のほうが面白いと思うようになりました。写真は良いと思った瞬間に完成する楽しさがあります。

三橋:映画は長編小説みたいですが、写真は詩や俳句に近いんです。説明的に感情を誘導するのであれば時間軸のある映像作品の方がいいんです。写真は一瞬のスパークというか、その瞬間の感性が封じ込められてポエムの様になるんです。小島さんはどう思いますか?

小島:デザインを作っていく中で、写真が良いものでないとデザインのクオリティが変わってくると思い、写真専攻を選択しました。勝間田先生に弟子入りして、一番最初の仕事が動画の案件だったので驚きました。動画撮影での動きがわからず大変でしたが、今は編集のお手伝いもできるようになりました。

勝間田:小島さんはデザイン分野から入ってきているので、普通のアシスタントであれば小島さんの年齢くらいでやっとPhotoshopを使えるくらいですが、小島さんはPhotoshopだけでなくさまざまなアプリケーションも使用できます。幅広い分野を学ぶことができる横浜美術大学の強みだと思います。今後自分でデザインをして、そこに自分の強みを乗せることができると思います。

三橋:これからの時代は一つのアプリケーションや一つの技術だけでは突破できないようになってきています。

小島:そういう意味ではいろんな案件を手掛けている勝間田先生に弟子入りしてよかったです。動画撮影もやっていく中で編集作業が楽しくなってきました。自分が大まかに編集したものを勝間田先生に確認してもらいますが、1フレーム毎に編集を行い、何故ここをカットしたのか、もとの自分の動画と比べてどう変わったか、編集した意味を考えることが楽しいです!

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